B Corp Journey #1
「B Corp」という言葉を聞いたことはありますか?
日本では馴染みのない言葉ですが、B Corpとは「企業を認証する制度」です。米国ペンシルバニア州を本拠とする非営利団体「B Lab」による民間の認証制度で、2006年の開始から国際的に広がりつつあります。
B Corpの“B”が意味するのは、”Benefit”のB。これは日本語に訳すと「利益」という言葉が一般的ですが、ここでは「公益」すなわち「社会全体にとっての利益」という意味合いが強くなります。つまりB Corpは、単独の利益だけでなく、社会全体に利する公益を重視する企業に与えられる認証ということです。
それでは、なぜこの認証制度が生まれたのか? その背景には、アメリカに限らず現代の企業に広く浸透している「株主至上主義」があります。
B Corp誕生の背景
株主至上主義とは「企業は株主のものであり、株主の利益を最大化するために経営されるべきである」という考え方です。そして株主の多くが求めることは、自分の持つ企業の株価が上がることや、株主への利益還元を増やすことです。
株主を第一に考える企業は、必然的に、利益にならないものから目を背けるようになります。それこそが公益でした。人権や自然環境、有限資源よりも、自らの利益を優先した結果、劣悪な環境下での低賃金労働や、環境破壊や地球温暖化を顧みない資源搾取が行なわれました。現在の世界が抱える大きな問題には、こうした企業姿勢の影響を受けたものが多くあります。
このような背景から、B Corpは生まれました。
B Corpの考え方
株主の利益を最大化させることだけが、ビジネスにおける「成功」なのか?
世界に広がる問題は、もはや政府やNPOだけでは解決できない。企業がシェアホルダー(株主)だけでなくステークホルダー(広い意味で会社に関係する人々)に目を向け、「公益」を掲げる必要があるのではないか?
そうした企業が力を合わせ、不平等や貧困をなくし、より強固なコミュニティを築き、自然環境を健全な方向に導いていく。そして自分たちをも含めた世界が持続していく。これこそが「成功」なのではないか?
こうしたB Corpの考え方に賛同する企業の数は年々増えていきました。初めは82社(2007年)から始まった認証が、今では3,979社にまで増えています(2021年6月5日現在)。
B Corpは営利企業であればどのような企業でも認証を受けることができるため、業界も製造業や小売業、建設業、メディア、金融、ITなど、計150ものジャンルにまたがっています。さらには、もともとはアメリカ国内で始まったムーブメントでしたが、今では74カ国まで広がり、認証数もアメリカ国内よりも国外の方が多くなっています。
きっかけはバリューブックス
このように広がりを見せるB Corpですが、日本ではまだまだ認知が進んでいないというのが現状です(2021年6月5日現在、6社が認証済)。実は、わざわざもB Corpを知ったのはつい最近のことでした。知るきっかけとなったのはバリューブックス(上田市)。わざわざ姉妹店「問tou」における古書の選書などでお世話になっている企業です。
バリューブックスでは、主要事業であるオンラインでの本の買取・販売の他に、本でNPOなどに寄付を行なう仕組み「チャリボン」や、本が必要な人に古本を届ける「ブックギフト」など、社会に貢献する事業を行っています。そうした取り組みを、自分たちの尺度だけでなく外部の目で客観的に測り、自分たちの指針にしたいという思いで、バリューブックスはB Corpの認証準備を進めていました。
https://atarashi-kaisha.medium.com/interview-nozomi-torii-5a2ce276c3e0
「B Corp」はみんなでつくるもの:バリューブックス・鳥居希に聞く「あたらしい会社」が求められる理由
その中で中心的な役割を果たされているのが、バリューブックス取締役の鳥居希さん。わざわざ代表平田とも親交が深く、B Corpの存在を教えてくださったのも鳥居さんでした。
4月には鳥居さんと、サンフランシスコ在住のビジネスデザイナー・江原理恵さんからB Corpのことを伺うトークイベントを行いました。アーカイブはこちらのFacebookページからご覧いただけます。
B Corpと、わざわざの考え方
B Corpの話を聞けば聞くほど、わざわざの考え方に通じるものを感じました。わざわざでは「事業を行うにあたり利益は必要であるが、それを目的化しない」ということを長く考えてきました。
例えば、わざわざのパンはただおいしければいいわけではありません。食べる人の健康を損なわず、日々の糧になるものを目指すことをポリシーとし、定番で作るのは材料を厳選した食事パンのみとしています。また、食べ物を粗末に扱わないよう、実店舗とオンラインストアでパンの在庫バランスを調節する仕組みを作り、パンの廃棄ゼロを守り続けています。
他にもオリジナル商品として、靴下工場に余った糸を材料に作っている「残糸ソックス」や「わざわざザンシンバッグ」があります。これらは工場から相談を受けた悩みを解決しながら、作り手・売り手として必要な利益を出すことができ、買い手であるお客様にとっても購買行動を通してゴミの削減に貢献できる製品になりました。
B Corp認証取得を目指します
わざわざは営利組織であるため、ものを売って利益を出すことは、会社存続を考える上でも絶対的に必要なことです。しかし、そのためにすべきこととすべきでないことがあります。パンが売れるよう、いたずらに味の濃いものを作ってお客様の健康リスクを増やしたくありません。店頭の見栄えを良くするために、廃棄前提のパンを作りたくもありません。
また、工場でオリジナル商品を作ることと引き換えに、余った材料を増やして工場や関わる人々を困らせたくはありません。作る人、売る人、買う人。三方にとって良いものづくりでなければなりません。
これまでは自分たちの考え方で良いと思うことを行ってきましたが、B Corpにはそれを客観的な尺度で測り、より新たな広い視点を与えてくれる可能性を感じました。
そのためわざわざでは、現在B Corp認証取得を目指し、鳥居さんのお力もお借りしながら、準備を始めています。その一環としてまずは自社で使用する電力の供給源を見直し、100%自然エネルギーに切り替えることを検討しています。
オーガニックタオルの製造で知られるイケウチオーガニックでは、工場から直営店まで、使用する電気を全て風力発電でまかなっているといいます。これは自社で風力発電しているのではなく「風力発電による電気を使いたい」と考える企業や団体と、全国の風力発電所とを結びつけるサービスを利用したもの。エネルギーの側面から「公益」を考える上で、このイケウチオーガニックの取り組みは非常に参考になりました。
皆で理解を深めたい
B Corpの考え方が社会で機能するために。まずは、賛同する企業が増えることが第一の条件となります。バリューブックスでは現在、黒鳥社と共同で、B Corp認証取得に向けた入門書『The B Corp Handbook』の翻訳出版に向けた準備を進めています(ちなみに翻訳は30人の有志コミュニティで行われており、わざわざスタッフも1名参加しています)。
わざわざもその一助となるよう理解を深めながら、自分たちに何ができるのか考え、発信していきます! 引き続き、この取り組みにお付き合いいただければ幸いです。