ALDINと出会ったのは、東京の谷中にあるclassicoの店舗でした。2010年ほどのことです。長野に移住してから洋服を買う店をどうしていいのかわからなくなった当時、白いシャツを探していた時に見つけたのがclassicoでした。毎日更新されるブログを楽しみに、時々欲しい服が見つかるとメールオーダーして服を購入していたのです。
やっと行けたclassicoの店舗で見つけたのは、ALDINのリネンのバスタオルです。ひと目で気に入って赤と青を一つずつ購入してホクホク顔で帰ったことを昨日のことのように覚えています。あと、江戸屋の歯ブラシ。余談ですが、classicoの高橋さんには今現在、わざわざの商品セレクトの部分でもご協力いただいているよい関係性であります。
買ってきたリネンのバスタオルは、洗えば洗うほど柔らかくなって吸水性がよくなっていきました。擦り切れるまで愛用しましたが、やはりこれは店舗で取り扱いたい。
高橋さんにALDINをつないでいただき、取り扱いが始まったのがきっかけです。リネンは硬く吸水性が良くないというイメージがありましたが、使って洗って育つような体験がとても新鮮で、リネンが好きになっていったのです。それから一つずつALDINのリネンを集めていきました。
2012年にALDINのネット通販が解禁になった時のこともよく覚えています。すごく嬉しくて、やっとこのリネンを沢山の方に知ってもらえる!と商品を一つ一つ撮影してオンラインストアのページを作りました。柔らかさと吸水性をグラフにして、どうやったらWEB上で質感がわかるかな?と考えながら作ったことが懐かしいです。
ALDINはわざわざがECに本気で取り組むことになったきっかけの商品でもあり、愛着が深いブランドの一つです。だけど、工場には行ったことがなく電話でお話するばかり。いつだって忙しそうだったから、なんとなく遠慮してしまい工場に伺いたいとオファーすることもなく、月日が過ぎていきました。
時を経ての初対面
時を経て2022年。わざわざは、様々なオリジナル商品を世の中に送り出してきました。全国の工場を回っていく中で、既存商品の生産工場も少しずつ回り、取り組みを伝えることをしていきたいという話が社内で出ていました。
それならば、お付き合いの長いALDINに行きたいです!となり、代表の小林さんにお電話して工場を見学させていただくことになりました。一つきっかけがあれば、すぐに伺うことのできる距離感で驚きました。工場は山梨県富士吉田市にあり、わざわざのある長野県東御市からは車で3時間ほどの場所にあります。
シルクのネクタイ生地工場からリネン工場への事業転換
テンジンファクトリーとALDINを運営する有限会社テンジン(以下テンジン)は、小林新司さんが3代目の織物工場です。テンジンがある山梨県富士吉田市は、千年以上前の平安時代から続く織物の名産地です。豊富で綺麗な湧水があったこと、農業に合わない環境で養蚕に力を入れていたことが理由とされています。
実は小林さんが継ぐ以前のテンジンは、シルクのネクタイ生地を織る専門の工場だったそうです。ですが、時はバブル崩壊時代に突入します。中国産の安い生地におされ、家業の機織りは続けたいがシルクはもう難しいと感じたそうです。
また、オフィスでの服装のカジュアル化が進み、クールビズというノーネクタイを推進する運動も始まっていきました。当時のネクタイ業界はサプライチェーンが決まっていて、まさに歯車の一つのようだったと小林さんは言います。取引先が殆ど決まっている中で営業もせずに仕事が降りてくる状態が逆に怖くなったそうです。デフレになった時に利益が出ない状況になり、そこで前述の中国の進出も重なり事業継続への危機感が高まったとのことでした。
「これからは古びても価値が高まるような織物を作りたい」
ヨーロッパのマーケットでは素晴らしい織物が残っていて、親子孫まで何代にも渡って愛されているリネンを見たことや、文化服装学院へ通っていた妹さんのアドバイスもあり「リネン」という選択が浮き上がってきたのです。幸い、シルクとリネンという素材の違いはあれど、布を織るという基本的な技術は変わらない。2000年にALDINというオリジナルのリネンブランドがスタートしたのです。
根気強いブランド構築
小林さんは、オリジナルリネンブランドのALDINをスタートしても、シルクのネクタイ生地の製造を辞めることはしませんでした。ネクタイ生地を織っていたジャガード織機を3台手放し、ドビー織機を何台か入れて、リネンとシルクの両立を図っていきます。
シルクの製造をソフトランディングしながら、リネンの製造を徐々に増やしていったと小林さんは話します。そして、シルクの事業を終了させたのは、コロナの前だったということでした。およそ19年かけて、ゆるいカーブでシフトチェンジし、リネンブランドを確立させていったのです。
既存事業を続け安定収入を得つつ、新規ブランドを伸ばすという選択を全ての方ができるわけではありません。家業を大切に思っていたことはもちろんだと思いますが、少しずつ成長していく姿をイメージし、それを地道に続けていくのは、とても辛抱強く根気のいることだったと思います。小林さんは、地味でコツコツといいものを作りたいという姿勢でないと、できない仕事だとおっしゃっていました。
日本にも様々なファクトリーブランドがありますが、テンジンはその中でも初期に事業転換してブランドを成立させた稀有な存在なのではないでしょうか。
どんな特徴のある製品なんですか?
工場は、先ほどのショールームとは打って変わって、老舗の織物工場そのものの雰囲気です。職人さんが忙しく働いていらっしゃる合間を通り抜けながらお話を伺います。
実は忙しそうに動いていることには訳がありました。ALDINのリネンはヨーロッパの代々に渡り長く使えるリネンをイメージして作られています。長く使えるということは丈夫だということですが、その一つの秘訣に耳があるということがあります。通常は織機の幅の最大サイズで織物を作る方が効率がよいのですが、効率よりも質重視。耳があった方が布の耐久度としては高くなります。
布を織機の最大幅で織り、カットして縫ってクロスを作った方が効率は良いのです。ですが、敢えて小幅で織って耳を作り、長く使える耐久性の高いものづくりがしたいそんな想いが込められていたのです。
そして、布の風合いを出すために太い糸を使用したタイプの製品は、さらに手間がかかります。織物は織機に縦糸をかけて、シャトルと呼ばれる糸巻きを右から左へ左から右へと、往復させ織られていくのですが、そのシャトルに巻かれる糸の総量は決まっています。つまり、太い糸を巻くと長さが短くなるのです。
短くなれば、すぐに糸が終わってしまうので、頻繁に糸巻きを変えなければいけません。職人さんが工場を行ったりきたりしながらやっていた作業がこれでした。ものの2,3分ほどでなくなる糸をずっと繋いでいくのです。
自分が毎日使っているクロス類がこんな風に大切に作られていることを知って、とてもありがたく感謝の気持ちが湧いてきました。布にその努力が、滲み出ています。
一番驚いたのはアルディンの製品が太番手の糸が多いので、糸を巻くシャトルの交換が早いこと。細い糸は長く巻けますが太い糸は短いんです。ほぼ付きっ切りで職人さんが糸巻きを交換してました。2分ももってなかったです…。生産効率よりも丈夫で長持ちする生地を作る事を優先させていると仰ってました pic.twitter.com/Y8dqj4ndDM
— わざわざ問う人 平田はる香 (@wazawazapan) June 30, 2022
工場を拝見させていただき、愛着を持って商品を作っていらっしゃることに改めて感動しました。もし、大量生産・効率をよくという視点で作っていたとしたら、このようなものづくりにはなりません。作りたいものがあり、それを地道にコツコツと続けてきた方達だからできることです。ものには魂が宿るということを実感した取材になったのです。
小林さん、お会いできたことが本当に嬉しかったです。これからもすばらしいものづくりを応援しています。今後ともよろしくお願いいたします!
文責>平田はる香 写真>若菜紘之