わざわざでは2021年、メーカーと協業して製作しているわざわざオリジナル商品をTwitterやFacebook・Instagramの広告に出す取り組みを始めました。わざわざのことを知らない方々に知っていただくことが目的の試みです。
すると、「パン屋のTシャツ、高い」というような、値段が高価格ではないかというコメントをちらほらいただくようになりました。これはわざわざを知らない方に情報をお届けできているからこそだと感じていて、改めて「値段」について説明する機会とさせていただいております。
わざわざでは社内ミーティングで、オリジナル商品の生産背景について細かく共有がなされています。そのため価格について一定の理解はしているのですが、実は、わざわざのスタッフの中にも「パン屋のTシャツは高いからちょっと買えないな」と感じていた人はいます。
高くて買えなかった、パン屋のTシャツ
あるスタッフは、わざわざに入社したときに「パン屋のTシャツ、欲しいな」と思ったものの値段が高いように感じ、なかなか購入できていませんでした。
そのスタッフがこれまでに買っていたTシャツはファストファッションのもので、1枚2,000円程度でした。パン屋のTシャツは1枚9,130円。いつもの感覚なら、Tシャツを4枚買ってもお釣りがきます。自分としてのTシャツの相場とはかけ離れているため、二の足を踏んでいたそうです。
ところがある時、ちょっとした都合からパン屋のTシャツを入手することとなりました。そして実際に仕事やプライベートで何度か着てみると「これは高くないな」と感じたといいます。
首元が伸びることもなく、汚れてもかっこいい。分厚いエプロンと同じような安心感があり、火の粉にも屈しないのでキャンプに自信満々で着て行ける。着てみて初めて、パン屋のTシャツの良さを身をもって実感することとなり、値段への見方が変わったとのことでした。
パン屋のTシャツを高いと感じて買えていなかったスタッフは他にもいます。このご時世で出かける機会が減ったことでファッションとしての服への関心がすっかり弱まり、1万円近いTシャツを買う気にはなれなかったそうです。
半年ほど様子を見て、これは長く着ていけるから自分に必要な服なのではないかと思えてようやく購入。今ではもう1着買い足して、普段着としてローテーションで着倒していると話していました。
今ご紹介したわざわざのスタッフは、パン屋のTシャツを知ってから手にするまでに時間がかかりました。それぞれに背景がありましたが、ふたりに共通しているのは「Tシャツならもっと安く買える」と思っていたことです。
昨今ではファストファッションがすっかりお馴染みになりました。わざわざのスタッフにも「ユニクロ」を愛用している人が多くいます。ユニクロは実店舗が全国に811店舗あり(2021年11月末現在)、ファストファッションの枠のみならずアパレル業界においてシェア1位を誇る(業界動向サーチ調べ/2020 – 2021年アパレル業界 売上高ランキング)、まさにトップ企業です。
ユニクロオンラインストアで「Tシャツ」を検索してみると、990円から買えるTシャツがずらりと並んでいました。検索した時点で一番高いものは2,990円と、リーズナブルなラインナップです。
もうひとつ、ユニクロのような日常的に着回しがしやすいブランドとして「無印良品」のオンラインストアも見てみることにします。
ひとくちに「Tシャツ」といっても薄手から厚手のもの、素材や丈の長さの違いなど、様々な種類のものがあるため単純に値段で横並びに比較することはできません。それでも「Tシャツ」というとこういった価格帯のものが多く流通していることは事実であり、そんな状況の中でわざわざのパン屋のTシャツが高く見えるのは当然のことかもしれません。
服はセールで買うもの?
パン屋のTシャツが相対的に高く見えるのは、街中でアパレルショップがよくセールを開催していることも理由のひとつにあるかもしれません。
わざわざには以前アパレルメーカーに勤めていたスタッフがいます。当時、自社の服を着ていた人が少なかったのですが、わざわざに転職して驚いたことがあるそうです。それは、パン屋のTシャツをはじめとしたわざわざオリジナル製品を愛用しているスタッフが多いことです。
誰からも強制されていないのに、日々仕事で手に取っているうちに自分も実際に使ってみたくなったから試してみる。それですっかり気に入ったから、仕事・プライベート関係なく着続けて毎日の生活に溶け込んでいく。そのようにしてわざわざオリジナルの製品は、それぞれのスタッフの暮らしに自然と馴染んでいました。
わざわざでは、オリジナルで服を生産する際には「こういうものが欲しいけど世の中に見当たらないから、痒いところに手が届くような、自分たちが本当に欲しいものを作りたい」という考え方をベースにしています。だからこそ、自分たちが喜んで使える製品たちであり、お客様の暮らしやご要望にも合いそうだったらぜひご紹介したいと思っています。
ところでわざわざは基本的にセールをせず、商品を定価で販売し続けています。一方で、街中に目を向けてみると「2点で10%OFF!」や半額セールなどというセールの案内を目にしたことはありませんか。
本来、セールは今シーズンの在庫を一掃するという目的を果たすための手段のひとつだったかもしれませんが、現状の市場では沢山のセールが行われていることは皆さんも感じていることかと思います。もしかするとそれは、セール時期に商品を購入するという習慣が私達の生活に浸透し、企業はセールという選択をせざるを得なくなったのかもしれません。
企業はお客様の動向を探りながら、如何にニーズを満たすかということをいつも考えています。わたし達が一つ一つの買い物をする際に、何気なく決断していったことが積み重なっていった結果が今の社会とも言えるかもしれません。
一方で、お客様が「この会社の取り組みを支持したい」「このお店を応援したい」という気持ちでお買い物をすると、それは投資行動へと変わっていくでしょう。なぜなら応援したい企業でのお買い物で支払ったお金は、その企業が行なう取り組みへの投資にもつながっていくからです。
ちなみにセールで商品を販売するという慣習については、もしかすると今後変わっていく可能性があります。というのも、これからも持続可能であることを目指す「サスティナブル」の取り組みに向き合っていくと、セールを減らしたほうがいいと考えるアパレルメーカーが出てきているのです(参考:繊研新聞記事「ロンハーマン 30年にCO2排出量実質ゼロに 23年までにセールも廃止」「客が欲しいと思う服」)。また、フランスでもセールには課題感がある模様で、2021年夏のセールが不調だったことから仏衣料品連盟は「セールは廃れた習慣になった」と主張しています(出典:繊研新聞記事「フランス夏のセール 期待外れに終わる」)。
アパレル業界を取り巻く状況はこれからも変化していきそうです。そのひとつの大きな要素として、わたし達のお買い物があります。何気ない購買行動や、あるいはお買い物を通しての投資行動は、意味を持って巡り巡っていくのです。
パン屋のTシャツ
9,130円には理由がある
さて、どうしてパン屋のTシャツは9,130円もするのでしょうか。その理由のひとつに、パン屋のTシャツをはじめとしたわざわざオリジナル製品が国内のメーカーに生産をお願いしていることが挙げられます。
例えばユニクロは、商品企画から生産、そして販売までの全てを自社で担うビジネスモデルです。素材の調達を自社で直接行ないコストダウンを図ったり、生産拠点を中国やベトナム・バングラデシュなどに広げるほか、各店舗の在庫コントロールを適正に行なう等の多岐にわたる大規模な取り組みの結果として、現在のような価格帯での販売を実現しています(参考:ファストリテイリング/ユニクロのビジネスモデル)。
わざわざでは国内の数々の工場に足を運び、生産者の皆さんのお話しを伺ってきました。その中で、海外で生産するケースが増加したことによって国内で生産する工場が激減し、技術の継承が行われなくなっているという現状を知りました。わざわざはこの課題を深く捉えており、そのためわざわざオリジナルは国内工場と協力して生産する構造を作るということを意識的に行ってきました。
パン屋のTシャツは、東京は鳥越にショップを構える「yohaku」の秋田工場に生産をお願いしています。
わざわざでは薪窯でパンを焼いています。毎日のように粉と水と火にまみれてパンを焼く仕事をしていると、服もエプロンも最速で綻んでいきます。だからハードワークに耐えうる服とエプロンが欲しくてずっと探していたもののどうしても最適な服が見つからない、という話をうなぎの寝床・白水代表に話していたら、紹介されたのがyohakuでした。
yohakuの代表・渡辺さんと何度も顔を合わせ話し合い、互いの店を行き来し交流を深めて完成したのが「パン屋のTシャツ」です。洗っても収縮しないほどの度詰めの生地をオリジナルで編んでいただき、縫製も国内の工場にお願いしていて、細部に至るまでこだわりを詰め込みました。
正直なところ、かなりの手がかかっているので国産の衣類として1枚9,130円のパン屋のTシャツはむしろ安いくらいでもあります。「安いくらいだ」と言えるのは、わざわざが基本的にセールをしないと決めており、その前提で原価を設定しているためです。
わざわざオリジナルの製品作りにあたっては、商品原価を33%となるように設定することで生産者にお渡しする分をきちんと確保しています。なお2022年3月時点でのオリジナル商品の商品原価の平均値は37%となっています。ちなみにこの商品原価の配分は同業他社からすると驚きの高さだと言われたことがあります。セールをしないと決めているからこそできる設定です。
商品原価が定価の約3割というバランスは、生産者にきちんと対価をお支払いしながらもお客様にとっては購入時の価格が原価に対して高くなりすぎず、かつわざわざにも利益が入ります。お客様・生産者・わざわざ、皆にとってちょうどいい価格を目指した結果、販売価格が9,130円となりました。
「高い」「安い」
捉え方は人それぞれだけど
1枚9,130円のパン屋のTシャツが高いと感じるか、いやいや安いと感じるかは人それぞれです。その判断基準は各々が持っているものですし、その時の懐事情も関係してきます。ですので、パン屋のTシャツの値段を高いと捉えるのを悪いことだとは思っていませんし、かといって安いと思わせたいわけでもありません。わざわざとしては、どちらでもよいのです。
わざわざでは商品の情報がきちんとお客様に伝わるよう、特にオンラインストアでは実物を手に取れないこともあるので、できる限り言葉と画像で詳細をお伝えするようにしています。
自分自身の中にある「これは高い」「こっちは安い」というものさしは引き続き持っておいていただきながらも、説明に力を入れているお店や生産者の話を新たな視点として耳を傾けていただけたら嬉しいです。
話を聞いてみて「やっぱり高い」「それなら安い」「高くはないけど今の自分には必要ない」など、情報を知った上で自分なりに考えることが重要です。それを積み重ねていけば、自分のものさしが一層補強され、身の回りに集まってくるものが自分好みのものになり、より自分らしい暮らしとなっていくことでしょう。わざわざではそういう人たちを「よき生活者」と呼んでいます。
これからも、わざわざはこういったものづくりの話やお金の話をしていきます。またお時間のあるときに読んでいただけたら幸いです。
●パン屋のTシャツ オンラインストアはこちらから
監修>平田はる香 文責>いしはら 写真>若菜紘之